DATE: 2016.12.13

映画『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやってきた』監督のモーリス・デッカーが語るその全貌とは?

イギリスの月刊誌『レストラン』による「世界のベストレストラン50」で過去4度の1位を獲得するなど、独創的で高い芸術性と味が世界中で賞賛されるレストラン「ノーマ(noma)」。カリスマシェフ、レネ・ゼネビ率いるこのレストランが、2015年1月、本拠地デンマーク・コペンハーゲンの店を休業して東京での期間限定店をオープンしたことは、美食家たちの間で大きな話題となりました。しかも、「ノーマ・アット・マンダリン・オリエンタル東京」で提供されたのは、コペンハーゲンで出している料理ではなく、日本で調達した食材を使って新たに創作したオリジナル料理。そんな彼らの日本各地での食材探しの旅からレシピ開発、そしてオープン初日までのプロジェクト全貌をとらえたドキュメンタリー映画『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやってきた』が12月10日(土)より公開。ノーマの料理がなぜ世界で注目されているのか、日本での挑戦を間近で観察した監督のモーリス・デッカーに話を聞きました。

Q.監督はノーマが東京に期間限定の店を出すというプロジェクトをレネ・ゼネビから聞いて、すぐに映画にしたいと申し出たそうですね。

レストラン全体が他の国に行くということは非常にユニークなプロジェクトですし、マンダリンホテルという限られた空間で、短時間で達成するという挑戦が、すべて映画としての良い素材だと直感したからです。この映画で私が達成したかったことは、世界一のレストランが14の新しい料理生み出すという経験を、観客も一緒に体験してもらいたいということでした。

Q.レネたちの食材探しは全国各地に及んでいますが、森の中を歩いたり木の葉っぱや蟻を食べたりと、ただの食材探しではなく、日本の風土を体感することが重要視されているように感じました。

その通りです。ノーマの料理をコペンハーゲンから持ってくるのではなく、日本でノーマの哲学に基づいた料理を生み出すということが今回のチャレンジでした。リサーチは1年以上を費やして、彼らは季節ごとに何度も日本を訪れています。結果的にできた料理は、日本の文化風土がすべて盛り込まれているものに仕上がっていると思います。

Q.監督自身も撮影で同行した旅で新たな発見はありましたか?

日本は南北に長い列島で、北海道のように寒い地域もあれば沖縄のように暑い地域もあります。レネたちに同行して東西南北いろんな土地を訪れたのですが、それぞれに違った食材があり、同じ食材でも微妙に味が異なっていて、日本の食文化の豊かさと美しさを実感しました。また、レストランから農業にいたるまで、小さなスケールで行われる日本人独特の仕事の仕方も興味深く、自分の人生観が変わるような旅でしたね。

Q.レネ・ゼネビというシェフばかりが注目されますが、映画ではチームでの協働の重要さも伝わってきました。

シェフの名前を表に出しているレストランが多い中で、ノーマはチームとして売り出しています。レネ自身もチームを必要としているし、チームもレネを必要としていて、相互に依存している良い関係ができあがってるんですね。一人ひとりは世界一のシェフではないかもしれないけど、チームみんなが集まるとノーマになり、世界一のレストランになっているんだと思います。

Q.完成した料理は一見すると奇抜に思えるものがありますが、ノーマの料理の価値基準はどこにあると思いますか。

既存の常識にとらわれず、完璧なタイミングで収穫した材料を、さらに完璧な状態に料理することを彼らは日々研究しています。ノーマで食べる料理は、皆さん初めて食べる味だったり食感なので、それまでの経験と比較する対象がないんですね。ですから、誰もが必ずしも“美味しい”と感じるとは限りません。リラックスするのではなく、心を開いて新しい体験をする準備をしていないと、彼らの料理を楽しむことはできないと言えるでしょう。ただ、その体験は1カ月後でもはっきり思い出せるものです。味も匂いも身体で感じて思い出せるという意味では、私は絵画の体験に似ていると感じています。今回の映画を撮ることは、私にとってはゴッホが『ひまわり』を描くのを間近で撮影しているような感覚だったんです。そして、観客の皆さんには、この作品をノーマの15品目の料理として楽しんでもらえたら嬉しいです。

映画『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやってきた』

◎12月10日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督:モーリス・デッカーズ
出演:レネ・レゼピ、ノーマのスタッフ ほか

2016年/オランダ/英語、日本語/カラー/16:9フルHD/5.1ch/92分/原題:Ants on a Shrimp/翻訳:浅野倫子
後援:デンマーク大使館、オランダ王国大使館 配給:彩プロ 宣伝:サニー映画宣伝事務所、太秦
監督:モーリス・デッカーズ Maurice Dekkers
アムステルダムに拠点を構えるジャーナリストであり、映画製作者、起業家。ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツを卒業後に自身の会社DAHLで、食を扱うテレビ番組「KEURINGSDIENST VAN WAARDE」(03~)を制作、監督。この作品は100以上ものエピソードがあり、オランダでは人気番組のひとつ。イギリスの公共テレビ局、チャンネル4でも「FOOD UNWRAPPED」の名で放送されており、高い人気を誇っている。本作『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』で長編ドキュメンタリー映画デビュー。

出演:レネ・レゼピ René Redzepi
1977年12月16日、デンマーク・コペンハーゲン生まれ。地元の料理学校で学んだ後、世界有数の一流レストランであるスペインの「エル・ブリ」やアメリカの「フレンチ・ランドリー」で修業を積み、2003年、25歳で「ノーマ」のヘッドシェフ兼、創設者の一人となる。レネの生み出す独創的なメニューや審美眼に優れた盛り付けは世界で高く評価され、北欧料理に一大革命を起こした立役者として注目を集め、12年にはタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出。本作のほか、移民として虐められてきた過去や食材やノーマの今後について赤裸々に語ったドキュメンタリー映画『ノーマ、世界を変えるレストラン』(15)がある。


Editor:Eiji Kobayashi
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