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2020年8月
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今、最も勢いのある映画製作会社といえば「A24」だ。アカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』(2016)をはじめ、『レディ・バード』(2018)、『ミッドサマー』(2019)など、若手の才能ある監督を起用し、みずみずしい感性で作られた多くのヒット作を送り出してきた。   そんな「A24」の最新作が、『mid90s ミッドナインティーズ』である。90年代への愛と夢が詰まった青春映画だが、思春期まっただ中の主人公から覗き見る世界はあまりに儚く現実的で、複雑な思いに包まれるだろう。   主人公のスティーヴィーは13歳。屈強な兄にいつも打ちのめされ、早く大人になりたいと願っている。ある日、街のスケートボードショップに集まるイケてる少年たちに憧れ、お店に入り浸るようになる。自分のスケートボードを手にし、立ちションにタバコ、子どもだけでのドライブなど、仲間たちとの時間に魅了されていく。 スケートボードショップで出会う4人の少年が、実に個性豊かで魅力的だ。スケボーの腕前はプロ級で、人望が厚いリーダー格の黒人青年。裕福でスケボーも上手いが、自堕落な暮らしを送るやんちゃなプレイボーイ。学がなく仲間にバカにされながらも映画監督に憧れる貧しい白人少年。親から暴力を受けている下っ端キャラの移民の子など、人種も年齢も家庭環境も異なる彼らだが、「スケボー」を共通言語に、大人にも誰にも邪魔させない唯一無二のチームを築いている。スティーヴィーは、そんな彼らから“サンバーン”というニックネームを付けられ、次第に交流を深めていく。   彼らの会話の中で、印象的なセリフがある。「自分の人生は最悪だけど、他の人に比べたらマシだ」。90年代のロサンゼルス、多様な人種やステータスの人が住むこの場所には、貧困や格差、暴力が溢れている。すべての人が満たされた幸せな暮らしをしているわけではなく、10代にして「下を見ることでなんとか正気を保っている」と考えている姿に、厳しい現実を知らされる。

2020.09.08
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そんなふう 68
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そんなふう 68

実家に帰ったのは8ヶ月ぶりだった。お盆に帰るのも自粛される方がたくさんいるなかでどうしようか迷ったが、直前の1週間は外出せずに家族だけで過ごしていたし、いつも新幹線を使っていたのを車で移動することにして決行した。とくになにをするわけでもないが、ただ両親と3食をともにし、御詠歌をあげ、お墓まいりをしたり、ひととおりお盆の儀式をしたら少し気持ちが落ち着いた。   コロナ渦で仕事は減少したが、新しい写真集とこの連載をまとめた写真とエッセイの本を出すことになったため、この数ヶ月は編集したり、加筆修正する作業の時間に十分に充てることができた。それに伴い、ここ3〜4年分の写真と映像を全てじっくり見返すことになったのだが、いまの生活とは真逆の移動を繰り返す日々だったことを思い出し、随分と状況が様変わりしたことをしみじみと実感した。国内外の出張もあったが、実家にはこの数年仕事も兼ねて平均2ヶ月に一度は帰っていた。過去の写真を見ながらまた旅行したいな、という気持ちになるよりも、各地に住んでいる両親や義母、友人に会いたいという気持ちが先に立つ。こんな状況になるまえは、会いたければ自分が会いにいけばいい、と思っていたが、そんな自由があったことがいまとなっては貴重なことだ。それを経ての久しぶりの実家でお盆だったから、自分の心持ちひとつで見慣れた景色が違って見え、噛みしめるように数日過ごしたが、娘はわたしの心中など知るよしもなく、普段の生活と変わらずに元気よく遊び、時々ぐずったりした。一緒にいることで余計な感傷に引きずられそうな自分を引き戻してくれたことがありがたかった。   そんな彼女はぐずって泣いてひととおりわがままを言ったあと、あまえたい〜と言って抱きついてくることが近頃よくある。ストレートにあまえたい!と言われるときもあって、そんな時はわかりやすくて助かるのだが、本人もなぜぐずっているのかわからない時もあるようで、最終的にあまえたかった、とつぶやき、言われて自分も気づく、を繰り返したので、最近はぐずりだすと抱きしめるようにしたらすぐに収まるようになった。背中をトントンしながら自分がぐずって泣いて収まりがつかなかった幼い頃を思い出す。自分もただ母の関心をひきたくてわがままを言っていたこともあったのかもしれない。いつのまに自分はそういった感情を抑えるようになったのだろう、と考えてみる。遠回しな表現でその時々に近くにいた家族や友人に甘えていただけで、いまもあまり変わらないのかもしれない。自宅に帰る前日、父と喧嘩になった。内容は割愛するが、結果的に父を強い口調で責めたことが後味が悪かった。自分のことをわかってほしいけれどわかってくれないことに苛立った。それは甘えたい気持ちの裏返しなのか?と自分に問うてみる。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。大人になった自分でも、よくわからない気持ちを持て余した。ただ寛容な気持ちになれなかった自分が厄介で嫌になり、素直にあまえたい!と叫ぶ娘が羨ましいような気もした。

2020.08.31