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映画『mid90s ミッドナインティーズ』から見る、子育て考。思春期の子どもの居場所をどう見守るか。
今、最も勢いのある映画製作会社といえば「A24」だ。アカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』(2016)をはじめ、『レディ・バード』(2018)、『ミッドサマー』(2019)など、若手の才能ある監督を起用し、みずみずしい感性で作られた多くのヒット作を送り出してきた。 そんな「A24」の最新作が、『mid90s ミッドナインティーズ』である。90年代への愛と夢が詰まった青春映画だが、思春期まっただ中の主人公から覗き見る世界はあまりに儚く現実的で、複雑な思いに包まれるだろう。 主人公のスティーヴィーは13歳。屈強な兄にいつも打ちのめされ、早く大人になりたいと願っている。ある日、街のスケートボードショップに集まるイケてる少年たちに憧れ、お店に入り浸るようになる。自分のスケートボードを手にし、立ちションにタバコ、子どもだけでのドライブなど、仲間たちとの時間に魅了されていく。 スケートボードショップで出会う4人の少年が、実に個性豊かで魅力的だ。スケボーの腕前はプロ級で、人望が厚いリーダー格の黒人青年。裕福でスケボーも上手いが、自堕落な暮らしを送るやんちゃなプレイボーイ。学がなく仲間にバカにされながらも映画監督に憧れる貧しい白人少年。親から暴力を受けている下っ端キャラの移民の子など、人種も年齢も家庭環境も異なる彼らだが、「スケボー」を共通言語に、大人にも誰にも邪魔させない唯一無二のチームを築いている。スティーヴィーは、そんな彼らから“サンバーン”というニックネームを付けられ、次第に交流を深めていく。 彼らの会話の中で、印象的なセリフがある。「自分の人生は最悪だけど、他の人に比べたらマシだ」。90年代のロサンゼルス、多様な人種やステータスの人が住むこの場所には、貧困や格差、暴力が溢れている。すべての人が満たされた幸せな暮らしをしているわけではなく、10代にして「下を見ることでなんとか正気を保っている」と考えている姿に、厳しい現実を知らされる。